技術情報

ボーカルブースはなぜデッドであるべきか?

2025/03/10

今回はDTMをしている方や、ナレーション・アフレコなどの音声収録をする方に向けた記事になります。

ボーカルブースやナレーションブースの設計には、音の反響をどこまで抑えるかが重要なポイントになります。

本記事では、無響室メーカーとしての見解も交えながら、デッドな環境のメリットとデメリット、そして理想的なブースの作り方について解説します。

なぜボーカルブースはデッドな方がいいの?

余計な反射音を防ぐ

ボーカルブースの壁や天井が響きすぎると、マイクが直接音だけでなく、反射した音も拾ってしまいます。すると、こんな問題が起こります。

位相干渉反射音が元の声とぶつかり合い、一部の周波数が強調されたり消えたりする。
音がこもる特に狭いブースでは短い反響が混ざって、輪郭のはっきりしない音になる。
フラッターエコーの発生平行な壁が向かい合っていると、高音域の「ビビビ…」というような細かい反射音(フラッターエコー)が発生し、クリアな録音を妨げる。
ミックスしづらい録音時に変な響きが入っていると、後からリバーブを調整するのが難しくなる。

編集しやすい音にする

ボーカルは録音した後でリバーブやエフェクトをかけるのが普通です。だから、最初の録音はなるべくクリーンで余計な響きのない音の方が扱いやすくなります。いわゆる「ドライソース」として録ることで、ミックスの自由度を高めることができます。

不要な低音の響きを防ぐ

狭い部屋では、特定の低音が強調されてしまう「ブーミング」という現象が起こります。これがあると、ボーカルがモコモコした音になり、後から調整しにくくなります。

マイクの性能をかす

ボーカル録音では、単一指向性(カーディオイド)のマイクを使うことが多いですが、反射音が多いと意図しない音も拾ってしまい、ボーカルがクリアに録れません。余計な反射を減らすことで、マイク本来の性能を引き出すことができます。

でも、デッドすぎると歌いにくい?

自分の声が聞こえにくくなる

壁や天井からの反射がほぼゼロになると、歌い手は自分の声を聴き取りにくくなります。「ちゃんと声が出てるのか?」と不安になり、無理な発声になってしまうことも。

空間的広がりがなくなる

普通の部屋で歌うと、適度な反射音があるので、声が広がって聞こえます。

お風呂で歌うと気持ちよいと思うのもこの効果が顕著にでますね。

でも、デッドすぎると声が詰まった感じになり、息苦しさを感じることも。

パフォーマンスに影響する

歌い手は「響き」を頼りに声をコントロールすることが多いので、響きがゼロになると、表現の幅が狭まることがあります。デッドすぎると、歌が平坦になりがちです。

ナレーションブースやアフレコ現場にも当てはまる?

ボーカルブースと同じく、ナレーションブースや声優のアフレコブースも基本的にはデッドな環境が理想です。その理由は以下の通りです。

クリアで聞き取りやすい音を録るため

ナレーションやセリフ録音では、言葉の明瞭さが最も重要です。余計な反射音が入ると、語尾が濁ったり、音が重なって聞き取りにくくなります。デッドな環境でドライソースとして録音する事で、録音後の音声編集がスムーズになります。

キャラクターごとの音響処理を自由にするため

アニメやゲームのアフレコでは、キャラクターごとに異なる空間で話しているように演出する必要があります。録音時にはなるべく響きを抑え、あとからリバーブやエフェクトを自由に加えられるようにするのが理想的です。

ボイスオーバーや吹き替えの同期をしやすくする

吹き替えやボイスオーバーでは、映像にピッタリ合わせる必要があります。部屋の響きがあると、元の音とズレたり、リップシンク(口の動きとの一致)が不自然になることがあります。デッドな環境なら、オリジナルの音声とマッチさせやすくなります。

理想的なブースの作り方

ヘッドホンの返しにリバーブを加える

モニター(ヘッドホンやイヤモニ)に適度なリバーブを加えると、デッドな環境でも歌いやすくなります。

  • 自分の声が自然に聞こえる
  • 空間の広がりを感じられる
  • パフォーマンスが向上する

適度な拡散を取り入れる

デッドすぎる環境を避けるには、以下のような工夫をすると良いでしょう。

拡散パネル(ディフューザー)を活用面や天井に拡散パネルを設置し、自然な響きを残す。
※ 筆者は昔、ブースの歌い手の背後に園芸用のラティスを置いてました。
一部の壁を反射面にするすべてを吸音材で覆わず、側面や天井の高い位置に反射板を設ける。
ブースのサイズを適度にする狭すぎるとデッドになりすぎるので、1.5m×2m以上が理想。

まとめ

  • ボーカルブースだけでなく、ナレーションやアフレコブースも基本的にデッドな方が良い。
  • 不要な反射音を抑えれば、録音後の編集がしやすくなる。
  • モニターの返しにリバーブを加えると、デッドな環境でも歌いやすさがアップ。
  • 拡散パネルや反射面を適度に使い、自然な響きを取り入れた設計が理想的。

録音ブースの音響設計は、「録音のためのデッドな環境」と「演者が快適に話せる空間」のバランスが大事。適切な設計をすれば、クリアな録音と快適なパフォーマンス環境の両方を実現できます!

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