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NC曲線とは?その限界と実用性について

2025/03/25

室内の騒音評価に用いられる指標のひとつに「NC曲線(Noise Criteria Curves)」があります。NC値は、特定の周波数帯域における騒音レベルを評価し、室内環境の静粛性を判断するために使われます。しかし、このNC値にはいくつかの課題があり、「NC値だけで騒音の快適性を判断するのは適切か?」という疑問が浮かぶこともあります。本記事では、NC曲線の概要とその限界、そして実用性について解説します。

NC曲線とは?

NC曲線は、室内の背景騒音を評価するための基準のひとつで、測定された騒音スペクトルを標準化された曲線と比較し、最も近い曲線の値をNC値として決定します。

NC値の一般的な目標値

NC-20~NC-25録音スタジオや高級オーディオルーム
NC-25~NC-30住宅、静かなオフィス、ホテルの部屋
NC-35~NC-40一般的なオフィス、会議室
NC-45~NC-50空調が効いた工場、研究室
NC-55以上騒がしい環境(工場、交通量の多いエリア)

※ ANSI/ASA S12.2の標準NC曲線には「NC-15」の記載はありません。一部の音響設計者やメーカーが独自に使用することはありますが、公式には定義されていないため注意が必要です。

NC-20以下の値はなぜ必要なのか?

通常のNC曲線はNC-20以上を基準にしていますが、極めて静寂な環境ではそれよりも低い値が求められることがあります。

無響室や超低騒音環境での必要性

精密な音響測定のため無響室では、外部騒音の影響を最小限に抑え、正確な音響測定を行う必要があります。そのため、NC-10やそれ以下のレベルが求められることもあります。
研究・医療用途聴覚研究や超音波測定など、わずかな環境音でも影響を受ける分野では、NC-15以下の静粛性が求められることがあります。
高品質な録音環境音楽スタジオや映画制作のためのポストプロダクション環境では、NC-15以下の極めて静かな状態が理想的とされる場合があります。

このように、標準的なNC曲線には含まれていなくても、特殊な用途ではNC-20よりも低い基準が必要になることがあります。よって、必要に迫られたことから、NC-15相当の数字が後付けで作成されていると思われます。

NC曲線の限界

NC曲線は騒音評価の目安として使われますが、いくつかの限界が存在します。

基準が統一されていない

NC値は国際的に統一された規格ではなく、各社が独自に設定した基準を使用する場合があります。たとえば、米国のANSI/ASA S12.2(”Criteria for Evaluating Room Noise”)に基づいたNC値と、ISOで定められたNR(Noise Rating)では、同じ騒音環境でも数値が異なる可能性があります。

人間の聴覚特性を完全には反映していない

NC曲線は特定の周波数帯域での騒音レベルを評価するものの、人間の聴覚特性(特に低周波ノイズへの感受性)を完全には考慮していません。低周波ノイズが問題になる環境では、NC値だけでなく**RC(Room Criteria)やRNC(Room Noise Criteria)**などの指標も考慮すべきです。

測定条件によるバラツキが大きい

NC値はマイクの設置位置、測定環境、背景ノイズの影響を受けやすく、同じ部屋でも測定方法によって結果が変わることがあります。そのため、異なる測定条件で得られたNC値を単純に比較するのは適切ではありません。

実際の室内環境とは異なる場合がある

NC値は主に空調設備(HVAC)の騒音評価を目的として作られたため、音楽鑑賞や録音環境の評価には必ずしも適していません。特に、

  • 残響の影響
  • 家具やカーペットによる吸音
  • 建物の構造による音の伝わり方

などを考慮しないと、NC値だけでは実際の快適性を正しく評価できません。

それでもNC値を使う理由

「NC値に意味はないのでは?」という疑問が出るのも当然ですが、それでもNC値は騒音評価の目安として一定の価値があります。

騒音レベルのざっくりした基準になる

「NC-35の環境なら一般的なオフィスに適している」といった大まかな指標として活用できます。数値が一応の指標になることで、建築設計や設備設計の段階での目標設定に役立ちます。

異なる環境の相対比較ができる

「A社のオフィスはNC-40、B社のオフィスはNC-30」といった比較ができるため、どちらが静かな環境かを大まかに把握できます。

業界的な慣習として定着している

特に建築音響やHVACの分野では、長年にわたりNC曲線が使われており、業界内の共通言語としての役割を果たしています。

企業ごとに異なるNC値の事例

NC曲線は統一された基準ではなく、企業や業界によって異なる解釈や測定方法が存在するため、同じ環境でも異なるNC値が算出されることがあります。ここでは、A社とB社の違いを例に挙げて説明します。

A社とB社の測定方法の違い

A社の測定 (ISO方式)B社の測定 (独自基準)
測定環境無響室内で測定実際のオフィス環境で測定
測定距離音源から1m音源から3m
使用する規格ISO 1996-1独自のNC曲線
低周波補正なし低周波ノイズを加味
結果NC-30NC-35

このように、測定環境、測定距離、規格の違いによって、同じ空間の騒音を評価しても異なるNC値が出る可能性があります。

まとめ

NC曲線は室内騒音の評価基準として広く使われていますが、

  • 異なる規格や測定条件で数値にバラツキがある
  • 低周波ノイズなどの影響を考慮しにくい
  • NC値だけでは実際の快適性を正しく評価できない

といった限界があります。

しかし、それでも大まかな騒音評価の基準としては有用であり、適切な使い方をすれば実用性はあります。より正確な評価を行うためには、RCやNRなどの他の指標も併用し、詳細な騒音スペクトルを確認することが重要です。

「NC値だけでは意味がない」と切り捨てるのではなく、目的に応じた使い方をすることが大切です。

ソノーラでは、お客様からNC-15以下の無響室を作って欲しいなどのお問い合わせを頂くことがあります。しかし、ソノーラでは上記のようにNC値は基準となる規格や数字が曖昧であることが多くあくまでも目安でしかないと捉えています。また、NC値は低周波域の数字が高くなっていることが多く、仮にNC−10相当の数値を無響室で実現したとしても、測定上影響などの問題が発生することがあります。よって、無響室内の静粛性を表すにはNC値ではなく、室内暗騒音値を保証しています。

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