技術情報
音響におけるドライソースとは?音響パワーと応用分野について
2025/03/06
- 無響室・防音室のソノーラ
- 技術情報
- 音響におけるドライソースとは?音響パワーと応用分野について

音響の世界には「ドライソース」と「音響パワー」という2つの重要な概念があります。一見似ているように思えますが、実は目的や測定方法が異なります。
この記事では、両者の違いや共通点をわかりやすく解説します。
1. ドライソースとは?
ドライソースは、音響や音楽制作で使われる用語で、エフェクトや加工を施していない元の音のことを指します。たとえば、楽器の生音やボーカルの生声などが「ドライソース」に当たります。これに対して、リバーブやエコー、ディレイなどが加えられたものは「ウェットソース」と呼ばれます。ドライソースは、そのままの音質で録音された音のことです。
無響室や半無響室などの自由音場(Free Field)環境では主に音響パワーを測定しますが、測定された音源は、ドライソースともいえます。これらの環境では、壁面や天井、床の吸音材が音の反射を極限まで抑え、純粋な直接音のみを測定できるためです。
2. 音響パワーとは?
音響パワー(Sound Power)とは、音源が単位時間に放射する音響エネルギーの総量を指し、通常はdB(デシベル)単位で表されます。
音響パワーレベル(Lw)は以下の式で計算されます:

- LW: 音響パワーレベル(dB)
- Lpf: 補正表面音圧レベル(暗騒音と環境補正を考慮)
- S: 測定表面の面積(㎡)
- S0: 基準面積(1㎡)
音響パワー測定では、逆二乗則(Inverse Square Law) が成立することが求められます。すなわち、音響エネルギーは距離の二乗に反比例して減衰するため、理論的には距離が2倍になると音響パワーは1/4に、音圧レベルは-6dB減少します。
ISO 3744 や ISO 3745 では、無響室での音響パワー測定の際にK2環境補正値 を考慮し、自由音場や半自由音場で測定できるように規定されています。特に無響室ではK2 ≤ 0.5dBが求められるため、ほぼ完全なドライソースとしての測定が可能です。
※ K2環境補正値とは?
K2とは、音響測定時の環境補正値のことを指し、測定環境による音の反射や吸収の影響を補正するために使用される数値です。
無響室や半無響室で音響パワーを測定する際、理想的な自由音場では音は距離の2乗に反比例して減衰します(逆二乗則)。しかし、実際の測定環境では壁や天井などの影響で反射音が生じるため、K2を用いてこの影響を補正します。
- 無響室(ISO 3745)ではK2 ≤ 0.5 dB(ほぼ完全な自由音場)
- 半無響室(ISO 3744)ではK2 ≤ 4 dB(一部反射を許容)
測定環境が理想的でないほどK2の値は大きくなり、精度の高い測定を行うにはK2を適切に補正することが重要です。
ドライソースと音響パワーは似て非なるもの
どちらも音に関する技術的な用語ですが、「何を測るのか」という視点で見ると、大きな違いがあります。
項目 | ドライソース(Dry Source) | 音響パワー(Sound Power) |
---|---|---|
意味 | 反響や残響を含まない純粋な音源 | 音源が単位時間に放射する音響エネルギー |
測定方法 | 無響室やデッド空間で直接録音 | 音圧測定をもとに計算(ISO 3744/3745) |
主な用途 | 音響解析、サウンドデザイン、録音 | 機械・設備の騒音評価、製品試験 |
関連する環境 | Recブース、無響室/半無響室 | 無響室・半無響室 |
共通点
- どちらも「デッド空間(Recブース・無響室/半無響室など)」で測定できる。
- 反射音を排除し、純粋な音の特性を評価する際に利用される。
ドライソースの活用例
音楽・サウンドデザイン
- ボーカルや楽器の録音(ルームリバーブなし)
- ゲーム・映画の効果音制作(Foley録音)
- AI音声認識の学習データ収録
技術・研究
- 音源分離技術(ノイズリダクション)
- 音響シミュレーションの基礎データ
- スピーカーの周波数特性測定
音響パワーの活用例
産業・騒音測定
- 家電(エアコン、洗濯機、冷蔵庫)の騒音評価
- 自動車・航空機の騒音試験
- 工場設備や建設機械の騒音管理
研究・設計
- 製品開発時の音響特性評価
- 音の拡散・指向性の測定
- 静音設計(ノイズキャンセリング技術)
まとめ 〜ドライソースと音響パワーの違いを理解しよう〜
ドライソース
目的 | 残響や反射を排除し、純粋な音を記録する |
---|---|
用途 | 音楽・サウンドデザイン、AI学習、音響解析 |
測定環境 | 無響室・半無響室 |
音響パワー
目的 | 音源が放出する音のエネルギー量を |
---|---|
用途 | 機械・家電の騒音測定、製品開発、静音設計 |
測定環境 | 無響室・半無響室(ISO 3744 / 3745) |
どちらも無響室などの「デッド空間」で測定可能ですが、その役割は異なります。
この違いをしっかり理解し、適切な環境で測定・解析を行いましょう。
音響技術は、私たちの生活のあらゆる場面で活用されています。
正しい知識を身につけて、より良い音響環境を実現しましょう!
技術情報 新着記事
-
2025.03.06
音響におけるドライソースとは?音響パワーと応用分野について -
2025.03.01
音楽制作におけるデジタルディレイとは? -
2025.02.25
室内外の同時騒音測定 -
2025.02.20
LED照明の問題点 -
2025.02.17
IRリバーブとは? -
2025.01.28
位相・逆位相、位相ズレって何? -
2025.01.22
室内暗騒音値の設定 -
2025.01.16
【グローバル顧問:南治子のコラム5】ソノーラの夢を見た No.2 -
2025.01.09
BFB吸音板@Metoree.com -
2024.12.25
【グローバル顧問:南治子のコラム4】ソノーラの夢を見た No.1
SHOW ROOMソノーラ・ショールームのご案内
無響室・防音室メーカーであるソノーラテクノロジーでは、東京、静岡、愛知、兵庫を拠点に、全国対応が可能です。音響測定・調査・診断~設計製造・施工・保証迄の自社一貫体制です。また御殿場市の「富士山テクニカルセンター」には無響室・防音室のショールームがあります。実際に測定器を使用した状態で、当社製品の高い性能を確認いただきながら、独特の無響空間を体感することができます。またショールームの他に、当社紹介の映像、工場の見学も合わせて実施しております。国内にて無響室を無料開放している機関はほとんどありません。製品の購入を検討されている方、当社へ興味をお持ちの方、 一般の方、メディアの方など業務外での御利用も可能です。是非お越し下さい。
※現在、一時的に一般個人の方の見学予約を中止させて頂いております。御了承の程お願い致します。
〒412-0046 静岡県御殿場市保土沢1157-332 東名高速道路 御殿場ICより約15分
TEL 03-6805-8988 / eFAX 03-6740-7875(全支店共通)
CONTACTお問い合わせ・パンフレット請求
ソノーラテクノロジーの商品に関するお問い合わせやご相談は お問い合わせボタンよりお気軽にご連絡ください。 資料を郵送でご希望の方はパンフレット請求ボタンよりご連絡ください。