技術情報

鉄板製残響室について

2022/07/27

残響室は一般的にコンクリート造であるが、もし鉄板で小規模な残響室を作ることが可能であれば、工場の屋内、事務所内等に設置や解体することが容易となる。

鉄板製残響室では吸音率を求めることを主な目的とする。小規模な残響室を鉄板で作った場合、コンクリートと鉄板では吸音率に違いがあるため比較し検討を行う。

前川純一著「建築・環境音響学」にある吸音率データで比較する。
※ 仮に残響室表面材(反射面)を1.6tとした場合

表1 材料の吸音率

周波数(Hz)125250500100020004000
コンクリート打ち放し面0.010.020.020.020.030.04
鉄板1.6t 空気層大0.10.060.050.050.050.05

コンクリートの吸音率は125Hzで0.01、鉄板1.6tでは0.1と、吸音率に10倍違いがあり、鉄板の方が吸音する。

この吸音率を同等にするためには、鉄板1.6tをニュートンの法則F=mαから10倍の質量、すなわち16tとすれば応答加速度が同じとなり、吸音率もほぼ同じになることが想定できる。

ただし、一般のコンクリートの残響室の残響時間は、例えば125Hz帯域で11.6秒、2000Hz帯域で3.8秒と低音ほど長くなっているが、表3に示すJISの許容する最大の等価吸音面積では、のちに表5でチェックをするが、周波数に応じて変化はこれほど違いがみられない。

そこで例えば鉄板1.6tの5倍程度、9mm程度の鉄板で推定をしてみる。

表2 鉄板9tの場合の吸音率

周波数(Hz)125250500100020004000
コンクリート打ち放し面0.010.020.020.020.030.04
鉄板1.6t 空気層大0.10.060.050.050.050.05
鉄板9t推定0.020.010.010.010.010.01

一般的な残響室は、コンクリート製の平面5角形の不整形な建物であることが多い。

この建物の根拠は以下のJISA1409に基づいている。

JISの残響室の規定 JISA1409:1998(ISO354:1985 2006確認、2011確認)によると、残響室の容積は150m³以上とし、新設する場合は、200m³程度とする。

Lmax <1.9 V1/3

ここに

lmax:室の境界に内挿する最も長い直線の長さ(例えば、直方体室の場合は長い方の対角線)
V:室の容積
音場の拡散:室内の音の減衰過程での音場は、十分拡散させる。室の形状にかかわらず、満足のいく拡散状態を達成するために、一般に静止吊り下げ拡散板または回転翼の使用が要求される。
室の等価吸音面積:1/3オクターブバンドごとに測定した、資料を入れない状態における残響室の等価吸音面積は表で与えられる値を超えないものとする。

表3 容積200m³の室の最大等価吸音面積

周波数(Hz)125250500100020004000
等価吸音面(m²)6.56.56.57.09.513.0

※ 等価吸音面積A1とは

A1=55.3V/cT1

ここに、        

V:試料を入れない状態における残響室の容積(m³)
c:空気中の音速(m/s)
T1:試料をいれない状態における残響室の残響時間(s)
試料は、10m²と12m²の間の面積とする。
温度および相対湿度:室内の相対湿度は40%より大きいものとする。残響時間T1とT2の一連の測定の間、相対湿度と温度は可能な限り一定にすること(表)

それではISOの残響室はどうか調べてみる。

ISO354では Acoustics-Measurement of Sound absorption in a reverberation roomで残響室の室容積は少なくとも150m³、これから作る場合には少なくとも200m³を推奨するとある。

また等価吸音面積も以下のように示されている。

表4 等価吸音面積
Table 1 ― Maximum equivalent sound absorption areas for room volume V = 200 m³

Frequency, Hz100125160200250315400500630
Equivalent sound absorption area, m²6,56,56,56,56,56,56,56,56,5
Frequency, Hz80010001250160020002500315040005000
Equivalent sound absorption area, m²6,57,07,58,09,510,512,013,014,0

※ もし容積が200m³とは違う場合には、この等価面積に(V/200m³)^2/3を掛ける必要がある。

このISO規格は日本のJIS規格と大きく異っていない。

残響室の容積は150m³以上、新設する場合に200m³程度とし、10~12m²の面積の吸音材を用いる。

しかしこの大きさは立方体で言えば約5m×6 m×7 mの大きさとなり、やはり試験機関での実験室と同等で、気楽にできる大きさではなくなる。

そこで例えば寸法の小さな4m×5 m×CH3m=60m³の長方形の残響室を検討し、JISならびISOのチェック項目でチェックする。

長さのチェック

lmax<1.9×(V)^(1/3)

長方形の斜めの長さlmax=(5²+4²+3²)^(0.5)=7.07
1.9×(V)^(1/3)=1.9×(60)^(1/3)=1.9×3.91≒7.4 lmax=7.07<7.4
 となり、条件を満足する。

拡散性のチェック

拡散性のチェックは、ISO 354:2003内の附属書Aに従って実施
ISO354では、グラスウールやロックウールやポリエチレンフォームをセットして、拡散体5m²をゼロから少しずつ数を増やし、吸音率の値が安定すればその拡散体を必要としているとのこと。

等価吸音面積のチェック

(V/200)^(2/3)

V=60m³、(60/200)^(2/3)=0.3^(2/3)=0.448

表5 新残響室の等価吸音面積

周波数(Hz)125250500100020004000
等価吸音面積(m²)6.56.56.579.513
x 0.4482.92.92.93.14.2565.82
鉄板9t推定0.020.010.010.010.010.01
1.880.940.940.940.940.94

必要な等価吸音面積よりも計算上の吸音面積Sαは小さい値となっているため、満足した状態となっている。

ここでは鉄板でできた長方形の残響室4m×5m×CH3m=60m³を検討したが、不整形の5角形で、側壁を斜めに立てる場合もありうる。

また計測する物の大きさによって実験室の大きさを検討し、小さい残響室でも正しい値が出る周波数領域を把握すればいいことがわかる。

またこの無響室をこの残響室に隣接して設置し、無響室-残響室の間に開口部を作り、遮音の測定に用いることもできる。

YAB Corporation
藪下 満

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